MOVIE

『バトル・ロワイアル』 深作欣二(監督) /

美しく過酷な、サバイバルゲーム。

「リアリティがなくて嫌な感じのスプラッタ映画。だから見なくていいよ」。私をよく知る友人は、そう言った。だけど私は、もしや?と思って見に行ったのだ。その結果「リアリティがあって希望を感じる批評的な映画」と私は感じた。これだから映画は面白いし、やめられない!

ゲーム仕立てのわくわくするような展開、無人島でのサバイバルというオーセンティックな設定、殺し合いを余儀なくされるクラスメイト42人の見事な描き分け、はまり役としかいいようがないビートたけしの演技と彼自身が描いた1枚の絵、手抜きのない殺戮シーン、戦闘服としての制服のデザインセンス、ラストシーンの普通の街の美しさ、そこから流れるドラゴンアッシュの「静かな日々の階段を」のシンプルな旋律……どこをとっても、高水準の映画だった。

戦争を知らない私たちに向けて、戦争の馬鹿馬鹿しい本質をこれほどわかりやすく描き切った作品を、私は知らない。とりわけ、敵味方の単位が「顔の見えない集団」ではなく「顔の見える個人」であることが、きわめて現代的。最後の一人になるまで戦い続けなければならない極限状況の中で、人はどのような行動に出るものか? パニックに陥る者、一人だけ助かろうとする者、皆で話し合おうとする者、友人を信頼できなくなる者、裏切る者、ゲーム自体を楽しむ者、愛する人と過ごす者、自殺する者、最後の瞬間まで楽しもうとする者、システムの破壊や脱出を試みるもの……..自分だったらどうするだろう? これは空想の中の「残酷なゲーム」なんかじゃない。私たちの、身近な日常そのものである。今日、誰と何を食べようか、というような些細な日々の選択肢の重大さを、否応なくつきつけられる。

映画館は満席。その大半が、映画に登場してもおかしくないような高校生だ。彼ら、彼女らも、登場人物たちと同様、一人ひとりが全く違うことを考えているにちがいない。そして、そういったさまざまな想像力をかきたてる点、多様な可能性を提示し、許容する点こそが、この映画の素晴らしさだ。

私と友人の見解の相違も、この映画の包容力の豊かさと問題意識の強烈さを象徴している。未解決の問題が山積みで、わけのわからない様相を呈している現代社会は、過酷だがいとおしい。こんなにも愛にあふれた映画が、高校生で満席になるなんて…….それだけで、21世紀の日本に希望を感じてしまった。

2000-12-22

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『カノン』 ギャスパー・ノエ(監督)

リアルは「問題作」なのか?

こういうのを待っていた!と素直に思えた映画。初めて村上龍の小説を読んだときのような印象。きれいごとではない、フランスの現実というべき風景が、50男のモノローグを通して描かれる。目をそむけたくなる映像が続出し、人間の心にひそむネガティブな感情が赤裸々に暴かれる。見ていて気分が悪くならないのは、それらが圧倒的にリアルだから。規制概念の枠の中でつくりこんだ「適度に上品な映画」のほうが、よっぽど下品でおぞましいと思う。

モノローグのセリフは普遍性があってすばらしい。だれもがホームレス寸前の前科者の心に同化し、憎悪の高まりやパニック寸前の感覚を共有することができるだろう。部分的にはゴダールの映画のようだが、ストーリーは実に明解で、シンプルで洗練されたエンターテインメントになっている。等身大のフランス、そして人間のリアルをストレートに見せたこの作品が、なぜ「過激」の烙印を押されてしまうのか。つまり、それは、近年まれにみる「正攻法で傑出した映画」ってことの証拠だ。
 
人の内面には、生まれながらにモラルが備わっているわけではない。もしかすると、私たちは、世の中の規範に心の中まで犯されているんじゃないだろうか? 他人の評価ではなく、自分の本能的な価値観を道しるべに幸せをつかみたい。そんなピュアな気持ちになる。
 
*1998年フランス映画/渋谷シネマライズで上映中

2000-11-02

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