『ジニのパズル』崔実(チェ・シル)
『コンビニ人間』(村田沙耶香 )

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芥川賞は、とっても、とらなくてもいい。

ジニは日本生まれの韓国人。18歳の勝ち気な女の子だ。中学から朝鮮学校に通い「世界からたらい回しにされるように、東京、ハワイ州、そしてオレゴン州と巡りめぐって来た」。
そんな彼女に、ホームステイ先のおばさん、ステファニーは言う。
「あなた、ここに来る前に何かあったのかしら」
「あなたは、とても哀しい目をしているわ」

ジニがステファニーに、日本でのできことの概要を話すと、ステファニーは言い切る。
「それが事実だとしたら、あなたはいつか絶対に話さなければならないわ。たとえそれが私でなくても、誰かには、絶対によ」

ジニは、記憶の断片を綴り始める。
「いつか誰かが言っていた。よく笑う人間は、沢山傷付いた人だと。心から優しい人間は、本当に深い傷を負った人なのだと。でも、と私は考える。沢山傷付いた人間が、数え切れないほどの人たちを自分以上に傷付けてきた場合、それは果たして優しいと言えるのだろうか? 自分の傷を言い訳に、よりによって最も大切な人たちを、傷付け、騙し、欺き、追いやり、日の当たらぬ闇の底へ ー 自ら這いつくばって抜け出すしかない奥底まで突き落とした人間。それが私だ。これは、そんな私の物語なのだ」

未知のエネルギーをもてあまし、世界と対峙する革命志向の少女は、がむしゃらに言葉を発し、行動を起こす。洗練とは真逆の荒削りさの中に、時折、内臓から絞り出されたような鮮烈な表現が飛び出す。

この小説は、芥川賞候補になったが、選ばれずに次点となった。芥川賞に決まったのは、画一的な世間の常識から浮いてしまう「36歳、恋愛経験なし、コンビニバイト18年目」の女性を描いた『コンビニ人間』。どちらも圧倒的な熱量を秘めた作品で、まるで村上春樹と村上龍が一度に登場したかのよう。実際、審査員の村上龍は『コンビニ人間』を絶賛していた。
村上春樹は、芥川賞をとっていない。選にもれた『ジニのパズル』は、村上春樹の『風の歌を聴け』やアゴタ・クリストフの『悪童日記』みたいに多言語に翻訳され、世界で読まれてほしい。日本ではたぶん、評価が難しいだろうから。

世の中に解決不能な問題が山積みなのは、それでも次々と新しい命が生まれるのは、このような小説が書かれるためなのではないか? せめて、そんなふうに思いたい。
 
今月24日、イタリア中部地震が発生した日、イタリアの作家ロベルト・サビアーノは村上春樹の阪神大震災にまつわる短編集『神の子どもたちはみな踊る』の一節をツイートしていた。
「石はいつか崩れ落ちるかもしれない」「でも心は崩れません」「どこまでも伝えあうことができるのです」Sul terremoto di Kobe Murakami scrisse che la pietra va in frantumi ma il cuore no e aiutando “possiamo trasmetterlo gli uni agli altri”.

2016-8-31

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