●マチネの終わりに(平野啓一郎)毎日新聞出版
●浮遊霊ブラジル(津村記久子)文藝春秋
●クラウドガール(金原ひとみ)朝日新聞出版
●コンビニ人間(村田沙耶香)文藝春秋
●ジニのパズル(崔実)講談社
●赤へ(井上荒野)祥伝社
●手のひらの京(綿矢りさ)新潮社
●愚か者(松田公太)講談社
●これからの世界をつくる仲間たちへ(落合陽一)小学館
●流星ひとつ(沢木耕太郎)新潮文庫
2016-12-31
amazon2016-12-31
amazon2016-12-30
2016-12-30
急激な変化はあまり得意ではないけれど、時間をかけて、少しずつ変わっていけることがあったらいいなと思います。この十数年、コピーライターの仕事に没頭するかたわら、ほかのジャンルのお仕事もいただけるようになったのは、うれしい変化でした。体験しきれないほどたくさんの映画や音楽や言葉が、いつも身近にある幸せを感じています。これまでの、そして明日の、かけがえのない出会いに乾杯!
2016年末 相川 藍
哲学や芸術のもつ力が、政治経済やインターネットがもたらすグローバルな厄災に打ち勝つことが、全編を通して書かれていて、心地よい。その中心には「愛」がある。同質のテーマを孕む西加奈子のグローバル小説『i』の中心が、カタカナの「アイ」であることと対照的だ。
ゆるぎない信念を心に抱いていれば、どんな困難に見舞われても、その果てには必ず見晴らしのいい風景がひらけると、無邪気に信じたくなる。なんと口当たりのいい小説だろう。
こんな恋愛は、選ばれた人にしかできない。国際的に活躍する天才クラシックギタリスト(蒔野)と、ユーゴスラビア人の著名な映画監督を父にもつ通信社記者(洋子)という、憧れるのもおこがましい高スペックな男女の物語だ。序章に「私から見てさえ、二人はいかにも遠い存在なので、読者は、直接的な共感をあまり性急に求めすぎると、肩透かしを喰らうかもしれない」と書いてある。
「もし事実に忠実であるなら、幾つかの場面では、私自身も登場しなければならなかった。しかし、そういう人間は、この小説の中ではいなかったことになっている」とも書かれている。だけど、読み始めてみれば、平野啓一郎という作家の趣味嗜好が、あらゆる細部を覆い尽くしていることがわかる。
最低な行動を起こす人物ですら、そこには信念があるという赦しは、最強のスノビズムだ。災難は加害者一人のせいではない。それを受ける側の状況にも弱みがあることがサスペンスフルに指摘される。要するに「こうなるしかなかった」という美しい運命論。
神の視点を持った通俗的なメロドラマでありながら、目を見張るような高尚さなのだ。聖と俗に精通した作家ならではの豊かな語彙が、悲恋物語のパターンを特別なものに変える。
重い世界に耽溺した後、たった5年半しか経っていないことに驚く。5年半で人はこんなに変わるものか。リーマンショックと震災をはさんだ5年半だから? 蒔野が雑談時に披露する「気の利いた話」が、心なしかだんだんつまらなくなってくるのが悲しい。天才ギタリストも、おっさん化を免れないということか。
洋子の魅力は、最後まで損なわれない。女性の「外見と精神の美しさの一致」をここまで具体的に描写し、肯定し、崇拝することのできる男性作家は希有だと思う。ブラボー。
2016-12-29
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