くちびるに刻印されたシミュレーショニズム。
「恐れることはない。とにかく『盗め』。世界はそれを手当り次第にサンプリングし、ずたずたにカットアップし、飽くことなくリミックスするために転がっている素材のようなものだ」
(椹木野衣「シミュレーショニズム」洋泉社1991)
そんな時代から10年以上が経過した今も、サンプリングやカットアップやリミックス、あるいは盗作やコピーやまねっこは、ますます加速しているように見える。そこには歴史的な概念がなく「もと」をたどることに意味がない。ピカビアと横尾忠則は同列で、ビートルズと奥田民夫も同列なのだ。
先日、代官山の某ショップに「穴空き部分とヒップポケット部分にヴィトンのモノグラムがついたusedのリーバイス501」があるという情報を得た。浜崎あゆみがデニム持込でオーダーしたものと同デザインで、グッチバージョンもあるという。これって一体何なのか? 「リーバイス」「リーバイス501をusedにした人」「ルイヴィトン」「浜崎あゆみ」「ショップのデザイナー」の5者コラボレーション作品?
7月16日付けの「i-critique」で浅田彰は、江國香織が「心に響いたこの1行」(週刊新潮7/18号)でモームの「お菓子と麦酒」(新潮文庫)を引用したことについて書いていた。浅田彰は、江國香織のフランス語のルビの間違いとともに、その1行が実はマラルメの有名なソネットの出だしの1行であることを指摘。「少なくともこれがマラルメの引用であることぐらいは知っていないと、そもそもモームの意図の理解さえおぼつかないだろう。その程度の初歩的な知識もない人間、あえて反時代的なポーズとしてモームの古臭い小説を取り上げるというより、その『小説の力』に素直に感動してしまうような人間が、『作家』として通用してしまい、その文章が、センター試験の国語の問題に出てしまう。現在のわれわれの文化は、そんな末期的状況にあるのだ」と結んでいる。
モームがマラルメを引用し、それを江國香織が「モームのオリジナル文」として紹介する。
あゆがリーバイスとヴィトンを引用し、それをショップが「あゆデザイン」として売る。
この2つ、似てない? 現代は、フットワークの軽いDJがアーティストと呼ばれる時代なのである。
さて、RUMIKOは、化粧品業界のDJというべきメイクアップ アーティストだ。彼女のオリジナルブランド「RMK」は、世界の化粧品のリミックスであるように見える。そして、そのことが、女の子の気持ちをぐっとつかむ。モデル撮影に立ち会う時など、ヘアメイクの人のメイクボックスを覗くと、RMKの化粧品が入っている率は相当高い。
NYでいかに自分を売り込んだか、どんなカメラマンと仕事をしてきたかという話よりも、彼女が高校時代、ツイギーの仮装をするために、つけまつ毛を手作りしたという話が印象的だ。メイクアップアドバイスのページも、身近なお姉さんの提案のようなときめきがある。料理のレシピでいえば「今日つくってみよう」と思わせてしまうセンス。
本書の初版本(¥1,300)には「限定リップグロス交換券」がついている。RMKのショップで私にそれを手渡してくれたスタッフは、とても嬉しそうで、私はRUMIKOファンから贈り物を受け取った気分になった。
リップグロスの容器には「Kiss」とあるのみでRMKのロゴがない。もしもこれがシャネルの限定リップグロスなら、シャネルのロゴは不可欠なはずで、少なくともロゴがなければファンは納得しないだろう。私は、唇の形にデザインされたリップグロスを自分の唇にコピーしながら、RUMIKOはやはりDJなのだ、と思った。
2002-07-22
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