リアルは「問題作」なのか?
こういうのを待っていた!と素直に思えた映画。初めて村上龍の小説を読んだときのような印象。きれいごとではない、フランスの現実というべき風景が、50男のモノローグを通して描かれる。目をそむけたくなる映像が続出し、人間の心にひそむネガティブな感情が赤裸々に暴かれる。見ていて気分が悪くならないのは、それらが圧倒的にリアルだから。規制概念の枠の中でつくりこんだ「適度に上品な映画」のほうが、よっぽど下品でおぞましいと思う。
モノローグのセリフは普遍性があってすばらしい。だれもがホームレス寸前の前科者の心に同化し、憎悪の高まりやパニック寸前の感覚を共有することができるだろう。部分的にはゴダールの映画のようだが、ストーリーは実に明解で、シンプルで洗練されたエンターテインメントになっている。等身大のフランス、そして人間のリアルをストレートに見せたこの作品が、なぜ「過激」の烙印を押されてしまうのか。つまり、それは、近年まれにみる「正攻法で傑出した映画」ってことの証拠だ。
人の内面には、生まれながらにモラルが備わっているわけではない。もしかすると、私たちは、世の中の規範に心の中まで犯されているんじゃないだろうか? 他人の評価ではなく、自分の本能的な価値観を道しるべに幸せをつかみたい。そんなピュアな気持ちになる。
*1998年フランス映画/渋谷シネマライズで上映中
2000-11-02